第9回 経営者に聞きたい!〜私たちのまち、かわさき〜
今回は、30年前にガラス工芸専門の教育機関として設立し、以来、1,000名以上の卒業生を世に送り出してきた「東京ガラス工芸研究所」所長の松尾敬子(まつおけいこ)さんにお話をうかがいました。
掲載日:2010/05/01

―― まずはじめに、「東京ガラス工芸研究所」の事業内容をお聞かせください
事業の大きな柱は三つあって、一つ目はプロのガラス工芸作家を育成すること。二つ目はトロフィーやモニュメントといった記念品の製作や美術品の復元修復。三つ目は廃棄物を原料に再生したり最新の科学技術を応用した製品を作ったりと、ガラスの持つ可能性の研究開発を行っています。
――廃棄物を活用するというのは、ユニークですね
瓶やグラスなどを砕いてできる“スラッグ”と呼ばれる粒を原料にすると、さまざまな色のガラスを生み出せるんです。スラッグを有効利用できたらと思い、他の自治体と共同で開発しているところです。本当は地元の川崎市と共同したかったのですが、川崎ではスラッグが出ない高性能のゴミ処理をしているそうなので、他の自治体と取り組んでいます(笑)。
―― 「東京ガラス工芸研究所」の事業を始められたきっかけを教えてください
幼いころから、美しいガラスは好きだったんです。結婚後、家事がひと段落した時期にガラス工芸を教えてくださるカルチャーセンターに通ったことで、歴史研究者でもあるガラス工芸家の由水常雄先生と出会いました。由水先生が正倉院に伝来したガラス器を実験考古学的手法で研究されていたのをお手伝いしているうちに、「日本にはガラス工芸を学べる場所がないこと」に気づいたのです。
当時は、ガラス工業の会社に就職するか、数少ないガラス工房の厳しい徒弟制度の中で修行するか、海外渡航も大変だったこの時代に日本の外で学ぶしか道が無かったので、必要性と使命感で研究所を設立しました。
また、従来のガラスの作り方では、原料を熔かす職人、ガラス玉を吹く職人、カットして装飾する職人など工程ごとに分業していましたが、1960年代にアメリカで起こった「作家が全ての工程を自ら行い、ガラスを芸術表現にしよう」という“スタジオ・グラス”と呼ばれるムーブメントにも触発されました。
ある時、朝日新聞の記者さんからアドリブ取材があり、ガラス技術専門の研究所としてほどなく日本全国からの問い合わせが殺到しましたね。

―― 人材育成事業は、ご苦労や嬉しいことがたくさんあるのではないでしょうか
30年間の今まで、約1,000名もの卒業生を送り出してきました。もちろん、全員がガラス一本で成功しているわけではありませんが、ガラス工芸作家として工房を構えたり、特殊ガラス工芸を主にする製作会社に就職したり、ガラスの技術を教える大学の教授になったりと、数多くの卒業生がガラスの世界で名を成しているのがいることが誇りであり、かけがえのない喜びです。
また、数々のガラスの美術館や工房などの開設にご協力してまいりましたので、ガラス工芸やガラス造形の発展と普及に寄与してきたと自負しています。
大変なことといえば、私たち東京ガラス工芸研究所には、高校を卒業してすぐにガラス工芸作家を目指す人も入ってきますし、会社を定年になって第二の人生としてガラスを本格的に学びたいと思って入ってくる人もいまして、幅広い世代の人たちの夢や思いが交錯しますので、“交通整理”をしなければならないことでしょうか。ただ、世代が異なるということは、それぞれの良さに気づくことにもなるので、利点でもあると思っています。
東京ガラス工芸研究所

http://www.tgai.jp/
「川崎市発のアート振興」に、日々情熱をかける松尾さん。
ガラス工芸から撤退する企業も相次ぐ中、民間スクールという運営形態をとりながら、古代のガラス技法や科学者と共同での新技術の研究等、自由に活動しているとのこと。
世界のガラス工芸には4000年の歴史があるものの、日本には“江戸・薩摩切子”に見られる程度の歴史しかないと氏は嘆息する。研究所設立の発端となった古代ガラス技法の復元に際し、現代技術の尺度ではどうあっても再現できない古代の造形技法やガラスの色を、職人同士が頭を突き合わせ、トライアンドエラーの積み重ねで探求してきたという苦労も。
写真は新技術として開発中の、紫外線LEDの照射でカラフルに発光するガラス製品。ホテルのロビー等、一日を通して表情を変えるステージへの活用に期待されている。

数多くのガラス作家を輩出してきた、東京ガラス工芸研究所。
「もしみなさんが観光地でガラス工芸体験教室を見かけたなら、その多くはこの研究所の卒業生がやっているはずです。」(松尾さん)
- 所在地
- 川崎市川崎区殿町1−6−21
- TEL
- 044-277-8178
- URL
- http://www.tgai.jp/









